「フリーランス法(取適法)は業務丸投げ+契約解除に対抗できるのか?」~集会報告
フリー編集者のIさんが宝島社に中途解除による損害の賠償を求めた裁判は、二審で請求棄却となり敗訴したことを以前お伝えしました。出版ネッツではフリーランス法の実効性を問うものと位置付け控訴審から支援してきました。
なぜ敗けたのか? この裁判を教訓として今後していかなければいけないことは何か?
4月27日、「フリーランス法(取適法)は業務丸投げ+契約解除に対抗できるのか?」と題し、出版労連本部にてオンライン併用による報告集会を開きました。
■控訴審では、契約内容の事実認定の誤りにより下請法の解釈適用に踏み込まず
まず、原告Iさんの代理人を務めた本間耕三弁護士より、事件の経緯と裁判の争点の説明がありました。

本件は、「100分de名著 カール・マルクス『資本論』」をマンガとテキストで解説する書籍の制作を、宝島社が下請法に反して契約書を作成せずに発注したことに端を発します。Iさんはマンガのシナリオライター、本文ライター、作画家をとりまとめ作業を進めましたが、作り直しや無理なスケジュールを打診されました。Iさんはこれら要望に応じていたのに、宝島社は一方的に制作陣の交代を強行。作業実態に見合わない費用を提示して契約を打ち切りました。
Iさんは下請法違反(不当なやり直し・給付内容の変更)などを訴え提訴。地裁では「書籍一式の制作を依頼した」と認められたものの、不法行為には当たらないとされました。続く高裁では、「原告への発注は制作の一部のみ」と非常に狭く認定され、岡田直己青山学院大学法学部教授が下請法3条(取引条件の明示)や同法4条2項4号(不当な給付内容の変更)違反を指摘し不法行為に該当するとした意見書の内容には踏み込みませんでした。
■発注書面が交付されていなかったのが最大の敗因
続いて、控訴審に意見書を提出した岡田教授が「“契約書は作らない”という因習がフリーランスを窮地に追い込む――宝島社事件の批判的検討」と題して講演をしました。

その中で岡田教授が特に強調したのが、「発注書面(契約書)が交付されていなかったのが最大の敗因」ということです。契約書を取り交わすことがフリーランスの防衛策になると語り、「契約書のない取引は、かけた時間や労力が一瞬で水泡に帰すリスクを孕んでいます。安全に適正な取引ができないリスクのある発注者を自ら選別していく姿勢が必要です」と参加者にアドバイスしました。
また、契約書に基づく仕事であれば、中途で契約解除となった際には「よほどのことがない限り、そこまでの仕事にかかった費用は、発注元が全額もしくは相当程度、受託者(フリーランス)に支払う義務がある」ことにも注意喚起しました(下図)。

「よほどのこと」とは、公正取引委員会が公開している解釈ガイドラインの「特定受託事業者の責めに帰すべき理由」に該当する2つの場合だけです。岡田教授は、「(契約書の交付、取引条件の明示があり)受注側に落ち度がないのに契約を解除されたら、決して泣き寝入りすることなく公正取引委員会などしかるべきところに相談するなどして、発注者側にその責任を果たさせるべき」と言及しました。さらに、受注側のそうした取り組みが積み重なることで、発注側の対応も変化し改善が促されます。
一方で、取適法やフリーランス法で違反事実があるとされても、それがすなわち不法行為であるとは限りません。宝島社事件のように公正取引委員会の行政指導があった場合でも、民事救済される可能性は、過去の判例からみても、非常に低いということも教示されました。
■熱心な質疑応答が行われる
次に、原告Iさんがこの報告集会のために綴った思いが読み上げられました。(全文はこちら)悔しさをにじませつつ裁判所は出版の制作実態をまったく理解していないことなどを述べ、「私からいえるのは、コンプラや法を守らないような出版社とは取引をしないほうがいい」と結びましだ。
質疑応答では、フリーランス法違反に対する法的救済の方策などについて熱心な質問が相次ぎました。そのうちの一つ、「発注書があったとしても、情報成果物の給付内容(仕事内容)は、発注者が求める成果物のイメージを正確に伝えることが難しい場合がある。きちんと伝わらなかった結果トラブル(報酬減額や契約解除など)になった場合は、どちらの責任になるか」との質問には、岡田教授から「その責任は発注者にある」との明快な回答がありました。曖昧なままフリーランスに仕事を行わせておいて、後になって頼んだものと違うというのは、フリーランス法5条1項2号(報酬の減額)や5条2項2号(不当な給付内容の変更)違反になると解説がありました。
最後に、この裁判に対する出版ネッツの見解「フリーランス法(取適法)の立法意義を無視した不当判決である」を発表して解散しました。見解では、フリーランス法3条違反を著しく軽視した判決を批判し、制作実態を無視した事実認定や、契約解除についての判断を回避したことへの強い疑問を表明しています。
多くのフリーランスがこの事件を「他人事ではない」と感じて支援に加わりました。
(文:石川れい子/編集・執筆、写真:織田恵子/校正)

