フリーランスの春闘宣言2024


コンテンツ産業を枯渇させないため、フリーランスにも生活の保障を

 今年も春闘、春季生活闘争の季節がやってまいりました。日々、さまざまなメディアの仕事に勤しんでおられるみなさん、出版、ネット、表現の現場で働くみなさん、業界のみなさん、経営者のみなさん、文字と情報に接するすべてのみなさんに訴えます。
 私たち出版ネッツは、成果物の正当な対価がフリーランスにも還元される春闘をと、’22年、’23年とフリーランスの春闘宣言を発し、前世紀からずっと据え置かれたままの報酬の10%アップに取り組んで来ました。業界からの反応は、残念ながらゼロ回答でした。私たちはずっと、前世紀から据え置かれた報酬で働き続けています。
 この業界に働く、私たちのようなフリーランスの編集者、ライター、カメラマン、デザイナー、イラストレーター、校正者だけでなく、著名な作家、文筆家、ジャーナリスト、脚本家など、文字情報作成業者、コンテンツ・メーカーの多くが、デジタル、アナログを問わず実に低廉な報酬で仕事をしている現実は、産業の未来を暗く閉ざしています。
 私たちフリーランスは、メディアを支えるクリエイティブワークの担い手、そして生身の働き手です。産業の要請によって輩出され、業界をかたち作っているフリーランスは、コンテンツ産業そのものであると言っても過言ではないのです。
 私たちがみなさんと協同して作り出す成果物は、商品であると同時に、文化的な価値を持っています。仕事をして生活するという、労働者であれば当たり前の循環すら成り立たない現実があり、クリエイティブワークが取るに足らない、替えのきく仕事として軽んじられる業界のままでは、コンテンツ産業の次世代への継承もままなりません。創造の源泉である報酬の充実は、どうしても必要です。
 この国の経済は、「安い日本」という呪縛から抜け出せていません。さらに、物価高騰が追い打ちをかけています。また、多くの反対の声を押し切って実施したインボイス制度が、大混乱をもたらしています。この制度によって、大半のフリーランスは減収となり、膨大な事務負担に直面しています。膨大な事務負担は、一方で発注の現場にも多大な負荷をもたらしています。仕事減となったり、廃業するフリーランスも少なくありません。誰も得をしない、誰も幸せにしない制度であることは疑いがありません。
 私たちの産業の業界天気図は、21世紀に入ってよりずっとどしゃ降りが続いています。その最大の要因は、クリエイターを大切にせず、使い捨てにしてきたせいではないでしょうか。何年も何十年もフリーランスの報酬が据え置かれ、クリエイティブワークをコストと見立てて削減圧力を向けている事実は、コンテンツ産業の将来に必ずや重くのしかかっていきます。安さにしか魅力を感じず、そこにのみ価値を見出すような、働き手を尊ばない産業は必ず衰退します。それは、人を大切にしないことで衰退してきたこの国の姿と重なります。
 この春、多くの企業が賃金アップを実施します。人口減、人手不足、人材流出の危機感から、政府、財界までもが賃上げに取り組まざるを得ない今、上流下流を問わず、私たち全員が、歴史的な分岐点に立っています。それは労働者、政官財、この国に暮らすすべての人々の願いです。
 私たちと一緒に働くみなさん、創造の成果を世に問い、知的生産に向き合う、すべてのみなさんに改めて訴えます。フリーランスの報酬を、10%増額してください。雇用労働者だけでなく、フリーランスにも持続的に生産に取り組むに値する生活給を保障してください。
 68年目を迎える春闘の果実が、フリーランスにも届く春となりますよう、すべてのみなさんに訴えます。

2024年1月28日

ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)執行委員会