一方的に契約破棄、外注費が払えない!~宝島社契約解除裁判、控訴審に向けて支援集会を開催~2026年1月8日
2023年11月21日、フリーランス編集者Iさんは、書籍制作の請負契約を一方的に解除されたとして宝島社を相手取り、約380万円の損害賠償を求める訴訟を起こしました。しかし、25年9月9日、東京地方裁判所は、Iさんが制作にかかわる業務一式を請け負っていたと認めたものの、Iさんが著者・監修者の要望に添えない面があったことは否定できず、同社の希望するスケジュール面に応じられなかったという偏った評価をしたうえで、「下請け事業者の責めに帰すべき理由がないとまでは認め難い」とし、契約解除は不法行為にあたらないと判断し、Iさんの請求を棄却する判決を言い渡しました。
「損害賠償が認められなかったので、私が外注者に発注した報酬や損害金を支払うことができていません」。Iさんは判決を不服として控訴しました。26年1月20日、東京高裁で控訴審が開かれる予定です。
そこで出版ネッツでは、この裁判を支援するため、1月8日、オンライン集会を開催しました。参加者たちはIさんの訴えに耳を傾けるとともに、事件について理解を深めました。

◆事件の経緯
まず、Iさんの代理人である本間耕三弁護士が本件について詳しく解説しました。(以下解説)
Iさんが宝島社から制作を請け負った書籍は、NHKの番組で話題になった「100分de名著 カール・マルクス『資本論』」を漫画と文章で解説していくものです。著者・監修者はS氏、宝島社の担当編集デスクはM氏、S氏が途中で連れてきたK氏が登場します。
〇短期間での制作。発注書面なし
もともとIさんは同社に席を置き、契約書を結ばれないまま、同社の会社員と同じような働き方を求められる、いわゆる常駐フリーのような形で仕事をしていました。
2021年5月6日、Iさんは同社の編集デスクM氏から、書籍の制作一式(漫画シナリオ執筆、作画、本文執筆、本文デザイン・DTP。これらをとりまとめる編集)を依頼されました。その際M氏から「発売は8月11日。時間がそれほどないので準備を進めてほしい」「漫画家の候補をあげてほしい」などの要望もありました。以前は常駐フリーでしたが、今回はそれとは異なり、完全な外注の立場として書籍の制作を一冊請け負う形です。
その後、M氏との打ち合わせにより、発売は9月、書籍の漫画パートのページ数は60ページに決定。Iさんは作画家、シナリオライター、本文ライター、デザイナーに仕事を発注。編集デスクM氏と著者・監修者S氏らと何度もやり取りを重ね、シナリオ案等を作成していきます。
その過程で、S氏の意見が二転三転したため、度重なる修正を余儀なくされました。実際に意見を取りまとめ、作業の指示を出していたのはIさんでした。かなりの苦労を強いられましたが、どうにか作業を進め、成果物を提出していきました。
なお、このときの発注に関して、同社は下請法3条に定められている発注書・契約書などの書面を発行しませんでした。そのため、やり取りはすべてメールのみとなりました。
また、報酬については、6月末、M氏から次の通り提案があり、Iさんも承諾しました。
作画家48万円、シナリオライター40万円、本文ライター35万円、本文デザイン・DTP費33万円、Iさん編集費35万円、経費1万円 計192万円
〇作り直しの指示。契約解除へ
7月19日、IさんはM氏から電話で、「S氏が漫画部分のシナリオの仕切り直しを求めている」と言われ、作り直しを命じられます。しかし、Iさんは、S氏の意向を受けたというK氏から6月に出されたシナリオ修正案を元にして、さらに度重なる赤字に応えて作っていました。作り直し指示の際、具体的な問題箇所・問題点の指摘はなく、追加費用の提示もありませんでした。
そこでIさんはそれまでのシナリオ案を破棄し、M氏と8月13日までマンガの舞台設定等を協議したうえで、制作陣とともに作り直しに励みます。具体的な問題点が何も指摘されなかったため、作ったものが再度S氏から作り直しを受けないよう注意しなければならず、まさに手探り状態での作業となりましたが、それでも何とか1章分のシナリオプロットだけ完成させ、8月28日に提出しました。
9月1日、M氏からIさんに「年内発売を目指したい」という提案がなされましたが、「もともと無理なスケジュールで進行していたところ、作り直しをしたので、年内発売は間に合わない」と回答します。
9月9日、M氏からIさんに「もっと短い制作期間で相談できる人に仕事をお願いしたい」と提案がありました。そして、その翌日の10日、M氏から再び連絡がありました。それは「制作陣を新たに組む」という内容であり、Iさんとの契約は解除されてしまいました。
なお、M氏は契約解除に当たり、Iさん含む外注者に対して総額25万円を支払うと提案してきましたが、総額25万円を分けるとなると、4か月のそれぞれの稼働分や費用にはとても足りません。
〇公取委、宝島社を下請法違反で行政指導
2022年に入り、弁護士に相談していたIさんは、同社の行為が下請法違反に違反すると知り、公正取引委員会に通報すると、同社に対して立ち入り調査が行われました。
2023年4月1日、同社から突然、Iさんに、34万7655円が振り込まれてきました。そして、6月21日、公取委員からIさんに「宝島社に下請法3条に違反する行為(発注書面を発行しなかったこと)、同4条2項4号違反の恐れがある行為(不当な給付内容の変更・やり直しの禁止)があったため、指導を行った」と通達がありました。
〇外注費の支払い拒否。提訴へ
その間、Iさんは問題解決のため弁護士に依頼し、同社との交渉を続けてきました。しかし、同社は行政指導を受けたにもかかわらず「Iさんには一部の業務しか依頼していない」などと主張して争う姿勢を見せ、外注費の支払いも拒否しました。
そのため、2023年11月21日、Iさんは同社を相手取り、損害賠償請求訴訟を提起しました。
まず、追加費用の支払いもなく、一からの作り直しを指示した行為は、下請法4条2項4号に違反すること。また、膨大な時間を費やしてシナリオなどを制作したIさんや外注者らの労務に見合う報酬を支払わずに契約解除したことは違法であることから、慰謝料を含む約380万円の損害賠償金を求めました。
●一審判決について
裁判の争点は次の3つです。
①契約の内容
宝島社が依頼した業務内容はIさんがいう「書籍の制作一式」か同社が主張する「漫画パートの編集・シナリオ構成協力のみ」か。
②作り直しの指示および契約解除は不法行為に当たる
③Iさんに生じた損害
争点①については、Iさんが制作一式を受注した、という主張は認められました。しかし、争点②については一連の同社の行為は「不法行為とまでは言えない」となったため、自動的に③のIさんの受けた損害についても認められませんでした。
〇不法行為と言えない理由
A 書籍制作の過程で、Iさんから提案された内容や具体的な進め方等で、著者・監修者S氏の要望等に必ずしも沿わない面があったこと。
B 作り直し後の制作物がM氏との協議から3週間以上経過し、宝島社の要望に応えることができない状況に至ったこと。
その他、契約解除後、宝島社の要望に沿うスケジュールで、新たに委託した制作陣により、本件書籍の出版に至っていること。また、同社からIさんに実働分の業務に対する報酬あるいは費用等として約35万円を支払っていること、などの事情を加味して、同社の行為は不法行為に当たらないとしました。
〇Iさん側からの反論
Aについて
Iさんは著者・監修者であるS氏の要望や指摘を踏まえ、その都度訂正しながらシナリオを作成してきた。要望等に沿わない、というのは誤りであること。
Bについて
そもそも7月19日の作り直し指示後に、当初の刊行スケジュールは破棄され「スケジュール未定」とされ、具体的なスケジュールの提示がなかったこと。作り直しを指示されてから修正案を提示するまで、8月13日までIさんとM氏との間でシナリオ内容の協議を進めており、そこから2週間ほどの8月28日に出しており、3週間以上はかかっていないこと。さらにIさんは提出前週に、M氏にショートメールで「来週送る」と伝え、許諾を取ったのちに、翌週提出したため、遅れたわけではないこと。そもそも同社が9月に入って急遽2021年中の発売の提案をしてきたスケジュール設定自体が不合理だったこと。
その他、Iさんが5月に当初提出した漫画のシナリオ案について、S氏が「キャンプ場の設定は、自然破壊につながるからやめてほしい。普段の生活の場面設定にしてほしい」と破棄したのに、別の制作陣によって刊行された書籍はキャンプ場が舞台設定となった漫画になっており、S氏の当初の希望すら反映していないので、比較できず、参考にならないこと。Iさんに35万円のみを支払ったからといって、やり直し指示の追加費用や労務費用、外注費を払わないことを正当化できないこと。
◆Iさん・支援者の言葉
次に、Iさんは控訴審に向けて、次のように語りました。
「宝島社は私に書籍の制作を一括丸投げしてきたにもかかわらず、「一部分しか依頼していない」と否定してきました。私が編集者として外注した事実すら認めようとしませんでした。さらに契約解除はS氏が要望したものと明かしました。私や外注者の損害についても、制作にあたり膨大な資料を読み込まなければならないところ、そういったことに対する損害も支払いを拒否しました。たしかに、資料を探して読むことそのもので成果物は発生しません。しかし、膨大な時間がかかりますし、労力も使います。これを認めないのは許せないです。
裁判で請求したお金の多くが外注費です。外注者に対しては、私は一部支払いを済ませたものの、まだ残っています。控訴審では何とか一審判決を覆して賠償を認めてもらい、解除の責任のない外注者に支払いたいと思っています」
次に、一審の際、Iさん側の証人となった外注者は次のようにコメントしました。
「外注スタッフとして、作り直し指示前のシナリオで2か月強、その後、作り直し指示後に新資料を読む等して2か月弱制作に従事しました。報酬は支払われておりません。宝島社のような大きな会社でこんなことが起こるなんて、びっくりしています。外注費が支払われていないことを裁判所で問題なしと判断されてしまい、非常に残念です。フリーランスとしてとても怖いことなので、控訴審では何とか認めてもらいたいです」
●質疑応答・意見
訴訟が提起されたのはフリーランス法が施行される前だったので下請法で闘っているが、現在ではフリーランス法5条で「発注者の禁止行為」が決められている。5条2項の2には、「不当な給付内容の変更と、給付後のやり直し」とある。発注側の都合でキャンセル(契約解除)したり、何度もやり直しをさせた場合、作業に要した費用を負担しなければならないことも定められている。フリーランスの労働組合として、この法律を使いたいと思っているが、今回のような判決が出てそれが確定してしまうと、使いづらくなってしまう。多くのフリーランスの権利に関わる裁判なので、ぜひとも応援したい。
●裁判を傍聴してください
控訴審で、Iさんは意見陳述する予定です。この裁判は、1つは大手出版社の横暴を許さず、フリーランス編集者の権利を守るため、2つ目は不当なやり直しを禁止した下請法4条2項4号を使いやすくするための闘いです。
どうぞ、お時間のある方、傍聴に来てください。裁判官に私たちフリーランスのやる気を示しましょう。
日時:1月20日(火)東京高裁822号法廷 14時開始
(文・写真:松本浩美)


