世田谷区史編さん問題をめぐる争議解決にあたっての声明
世田谷区史編さん問題をめぐって、2年にわたる争議が解決しましたのでご報告です。
今回のことは、世田谷区が区史編さん事業における著作者人格権尊重を確認したことに大きな意義があります。
これまでご支援くださった多くの方々に感謝を申し上げます。
以下、声明です。
著作者人格権の尊重を確約
世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議解決にあたっての声明
2024年12月23日、世田谷区(以下「区」)と谷口雄太さん(青山学院大学准教授)及び出版ネッツ(以下「組合」)は、標記の争議について和解解決の合意に達し、2025年1月7日、「確認書」を取り交わしました。同日、区は公式サイトの「区史編さん」のページに、著作権に係る契約の参考モデルとして「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する確認書」を掲載。組合は、東京都労働委員会(以下「都労委」)に対して不当労働行為救済の申し立てを取り下げ、争議は解決に至りました。
合意の骨子は、①区史編さん事業等における著作者人格権尊重、区公式サイトへの前記掲載、②区による遺憾表明、③区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、④都労委取り下げ、⑤誠実対応――の5点です。
■委員委嘱打ち切りとその後の経過
世田谷区では区政90周年を記念し、自治体史を編纂中です。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口さんは2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。
ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は「著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾」を迫りました。著作者人格権には無断で改変されない権利(同一性保持権)を含みます。無断改変できるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは同月、「世田谷区史編さんにおける『著作者人格権の不行使』問題についての声明」を発出。多くの歴史学会、歴史や著作権法の研究者、マスコミ関係者、フリーランスのクリエーターなどからの賛同署名が寄せられました。さらに、文化庁に「自治体史編さんに係る著作権取扱いについての要望」を送り、4月、都労委に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。組合は区民の会と連携し、区議会でも、会派を超えて質疑が重ねられました。
■解決の背景とご支援への感謝、全国自治体等への要望
TVドラマ「セクシー田中さん」原作者の漫画家が自死され、原作のドラマ化にあたって著作者人格権の扱いが背景にあったのではないかといわれた事件や、著作権の扱いも含めフリーランスの権利がフリーランス法で法律になったこと、関東大震災への政府見解や群馬の森追悼碑撤去をめぐり歴史修正への危惧が広がったことも、解決の社会的背景となりました。
今回の合意では「著作者人格権の尊重」が明記された点(①)に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(③)は遺憾表明(②)と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めたいと思います。
2025年1月14日
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
なお、世田谷区史編さん問題についてのブログ「御所巻」では、問題の概要やこれまでの活動、応援メッセージなどを掲載しています。
合わせて、ご覧ください。