声明:フリーライターAさん・東京地裁判決にあたっての声明
2020年7月13日に提訴して始まったフリーライターのAさんの裁判は、2022年5月25日に東京地方裁判所の判決が示され、報酬の未払いとハラスメントへの損害賠償のいずれも認められました。
セクハラの被害者心理にも言及されたうえで、被害者(原告)の供述の信用性を認定し、ほぼ全面的に事実が認められました。紛れもなく勝訴です。
担当弁護士の先生方をはじめ、これまで多くのご支援をいただきました皆様、本当にありがとうございます。
フリーライターのAさんの裁判とは
東京都中央区銀座でエステティックサロンを経営するB社(以下B社)とその経営者C氏を相手取って、東京地裁に提訴しました。
訴えの内容は、①不払い報酬の支払い請求、②望まない性的行為とセクハラ発言とパワハラにより精神的苦痛を受けたことへの慰謝料請求です。
以下、判決にあたっての声明を発表しました。
Aさん(業務委託契約報酬・ハラスメント慰謝料請求)事件
東京地方裁判所判決にあたっての声明
1 フリーライターの女性が、エステティックサロンを経営する会社に対して、業務委託契約の報酬と、セクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントによる慰謝料の支払を求めた事件(令和2年(ワ)第17431号)の裁判において、2022(令和4)年5月25日、東京地方裁判所民事第25部(裁判長平城恭子、裁判官熊谷浩明、裁判官織田みのり)は、原告らに対して、一部認容判決を言い渡した。
2 判決は、業務委託契約報酬請求について、契約の成立を認め、原告の請求を全額認容した。
そして、原告が請求している複数のセクシュアルハラスメント及びパワーハラスメント行為について、そのほとんどの事実を認定し、慰謝料150万円を認容した。
ハラスメント事件が一般的にそうであるように、本件も、ハラスメント行為についての客観的証拠に乏しい事案である。それでも、判決は、「美容ライターとして安定した収入を得ることを嘱望する原告が、被告会社から業務の依頼を打ち切られ、報酬の支払を受けられなくなることを恐れて、被告代表者に対してセクハラ行為等による被害を訴えず、被告代表者との間でセクハラ行為等の存在をうかがわせる内容のメッセージのやり取りをしなかった可能性も十分あり得る」として、原告の供述の信用性を肯定し、原告の主張するほとんどの事実を認定した。
また、本件契約は雇用契約でなく業務委託契約であるが、「原告が、当時、美容ライターとして固定額の月収を得られる仕事に就いたことがなく、被告代表者から、基本給を月15万円として業務委託契約を締結し、仕事の内容や結果をみて報酬を増額することや役員ないし正社員としての採用する可能性を示唆される一方で、結果が出なければすぐに契約を終了させる旨を告げられた上で、被告代表者の指示を仰ぎながら業務を履行しており、原告が被告代表者に従属し、被告代表者が原告に優越する関係にあったものというべきである」として、被告代表者が原告に対して、ハラスメント行為の優越的地位にあることを認定した。
そのうえで、「約7か月間にわたって、原告にバストを見せるよう求め、被告代表者の性器を触ることを要求するなどの性的な発言のみならず、原告の陰部を触り、原告の臀部に被告代表者の股間を押し付けるなどの性器への身体接触を伴うセクハラ行為を継続して行うとともに、原告に対する報酬の支払を正当な理由なく拒むという嫌がらせにより経済的な不利益を課すパワハラ行為を行ったものであり、その態様は極めて悪質である。」と断じた上、その後に原告に生じたうつ状態等の身体不調をこれらのハラスメント行為によるものと認定し、慰謝料150万円を認容した。
また、被告代表者の不法行為責任のみならず、「実質的には、被告会社の指揮監督の下で被告会社に労務を提供する立場であったものと認められるから、被告会社は、原告に対し、原告がその生命、身体等の安全を確保しつつ労務を提供することができるよう必要な配慮をすべき信義則上の義務を負っていた」として、被告会社の安全配慮義務違反を認めた。
3 フリーランスは、発注者と労働契約を締結しておらず、不安定な立場に置かれている。労働施策推進法や男女雇用機会均等法におけるパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの防止措置義務においても、フリーランスは対象外である。指針において、フリーランスに対しても対策を講ずるのが「望ましい」とされているにとどまる。
このようなフリーランスに対する対策の遅れから、発注者は報酬の支払いを免れようとフリーランス(受注者)にパワーハラスメントを行う、さらには優越的立場を利用した発注者が、業務を請け負いたい・継続したいと考えるフリーランスの心理に付け込んでセクシュアルハラスメントを行うといったことが横行している。本件は、その典型的な事案である。
本判決は、そのようなフリーランスが置かれている現状をくみ取り、フリーランスに対するセクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントの慰謝料請求を認容した画期的な判決である。また、被告に対する不法行為責任だけでなく、被告会社の債務不履行(安全配慮義務違反)責任を認めた点も画期的である。
ただし、判決が認定した事実に照らして、慰謝料額が150万円というのは低額であり、この点については遺憾である。
私たちは、被告に対し、本判決を重く受け止め真摯に履行することを求める。同時に、すべての発注者に対し、発注者にはフリーランスへの安全配慮義務があることを認識し、ハラスメント防止対策などフリーランスが安全で快適に働ける就業環境の整備を行うことを求める。また、国に対しても、速やかにハラスメント防止関連法をフリーランスに適用することを求めるものである。
2022(令和4)年5月25日
日本出版労働組合連合会(出版労連)
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
すべてのハラスメントにNO!フリーライターAさんの裁判を支援する会
(Aさんを支援する会)
Aさん(業務委託契約報酬・ハラスメント慰謝料請求)事件弁護団
【関連文書】
●Aさん(業務委託契約報酬・ハラスメント慰謝料請求)事件 東京地方裁判所判決にあたっての声明(PDFファイル)
●フリーランスへの会社の安全配慮義務を認める判決 東京地裁|NHK 首都圏のニュース
●フリーライターへのセクハラ認定、会社は安全配慮義務違反 東京地裁:朝日新聞デジタル
●女性フリーライターへのセクハラとパワハラを認定 東京地裁 契約した会社と経営者に賠償命令:東京新聞 TOKYO Web
●女性フリーライターへの「セクハラ」認定、会社と経営者に188万円賠償命じる 東京地裁|弁護士ドットコムニュース